12月13日~20日にかけて東京都美術館で開催される清和書展では、特別企画として植村和堂がコレクションしていた硯の展示が行われます。それに先駆け、清和書道会の機関誌で紹介された、植村会長による硯に関するエッセイを紹介させて頂きます。

ここで紹介されている硯も展示予定なので、ご興味ある方は展覧会にぜひお越し下さい。

「硯の変わり種」 (植村斉記 書つれづれより)

 
文房四宝と呼ばれる筆・墨・硯・紙のうち、硯は耐久消費財なので、実用上の目的のほかに、収集・ 愛玩の対象となっています。

 

仲間内で自慢の硯を持ち寄って鑑賞する洗硯会という催しがあります。水を張った盥の底に硯を沈めて、周りを取り囲んで鑑賞するのでその名があるようですが、水を通して眺めたほうが、石紋や石色が鮮やかに浮かび上がるのでしょうか。もっとも、ある中国の文人が日本を訪れたとき、人々が盥を囲んで集まっているので、金魚でも鑑賞しているのかと近寄ってみたところ、硯を水に沈めて眺めているので、日本人は奇妙なことをするものだと感心した、という話を聞いたことがあるので、中国にはない日本独特の風習なのでしょうか。


和堂先生も、著書『筆墨硯紙』の中で硯の鑑賞法として、「石色・石質を見て、硯式・彫琢を見て、手に取って撫でさすり、爪で弾いて声を聴く」と書いていますが、水に沈めて眺めるとは言っていません。


中国の屯溪に行った時、「老街」という商店街の通りをぶらぶら歩いていたら、大きな文具店の店先に水を張った水槽が置いてあり、中に歙州硯の原石が幾つも沈めてありました。縞模様が綺麗だったし、文鎮としても使えそうなので一個買いました。従って水槽に硯石を沈めるという習慣は中国にもあるようです。石に傷をつけないための配慮なのでしょうか。

図1)老街

 

和堂先生の収集品の中から、主として愛玩用の変わった硯を幾つかご紹介します。

 

玉硯
白玉を硯の形に成型したもの。表面は平滑で鋒鋩がないので、墨を磨っても殆んど磨れませんが、見た目は美しく手触りも滑らかで、鑑賞用には最適です。

図2)白玉硯
 

扁舟硯
小舟の形をした自然石。硯面は凸凹があって硯としては使えそうもありません。形が硯に似ていて面白いので、和堂先生が何処かから拾ってきて愛蔵品に加えたのでしょうか。

図3)扁舟硯

墨硯
清代の有名な女流作硯家=顧二娘=が制作した「杞栁硯」を墨で模したもの。墨は成型性が良いので自在な造形が可能です。

図4)杞栁硯

 

木化石硯

紫檀木の化石を硯に仕立てたもので、原産地はタイ国です。鋒鋩はあるので墨は摺れそうですがまだ試していません。

図6)木化石硯

 

菊花石硯

菊花石とは、玄武岩の中に石英が花模様のように入り込んだ観賞石です。これを硯に仕立てたのが菊花石硯で、実用というよりやはり観賞用の硯でしょう。

図7)菊化石硯

 

木硯
木製の硯。硯面には砂を撒いて漆で固めてあります。大層軽いので、旅行などの携帯用として便利です。鋒鋩がすぐになくなるので、メンテナンスには手間がかかりそうです。

 
図8)木硯

瓦当硯
瓦当の裏を研磨して硯の形に成型したもの。使った形跡がありますが、硬度が低そうなので、使い続けるとどんどん磨耗して凹んでしまいそうで心配です。

図9)瓦当硯表 図10)瓦当硯裏

陶硯
陶器製と磁器製がありますが、どちらも陶硯と呼ばれています。石の硯を使うようになったのは、中国では六朝時代以降、我国では平安時代になってからで、それまでは陶器や瓦の硯が専ら使われていて、膠で固めた固形墨を磨るのではなく、上で墨丸を磨り潰したり、墨の粉末を溶いて墨汁を作るのに使いました。


図11)陶硯 図12)陶硯

泥硯
唐硯の四大銘硯というと、端渓硯、歙州硯、澄泥硯、魯硯ということになっています。澄泥硯は嘗て泥を焼き固めて成型した硯だと思われていたのですが、現在では蘇州の霊巌山から採れる自然石を加工したものと判明しています。しかし、自然石の澄泥硯とは別に泥を焼き固めて造る泥硯も存在しました。写真の泥硯の裏面の銘文には「・・・・関底析出験之固是澄泥故知為宋朝物也」とあります。

図13)泥硯

この泥を焼き固めて硯を作る技術は長らく失われていたようですが、最近復活したと見えて「唐・宋時代の澄泥硯を現代に再現する」として、『汾河澄泥硯』と称する泥硯のカタログが送られてきました。

図14)澄泥硯カタログ