橙月水墨画教室 Sumi-e class in Tokyo

西日暮里と世田谷用賀で水墨画教室開催中です。 渋谷の国際墨画会では、英語クラスを担当しています。 Sumi-e class in Nishinippori and Setagaya (Yoga) in Tokyo. International Sumi-e Association in Shibuya, English class lecturer.

2月5日から28日まで、銀座のエルメスで面白いイベントが開催中です。

「ピアニスト」向井山朋子展@銀座エルメス

ピアノ数台を配置したインスタレーションが目を惹く空間で、オランダ在住で世界的に活躍されているピアニストの向井山朋子さんが、展示期間中、毎日時間を少しずつずらしながら演奏していくという趣向です。演奏時間は1時間ほどですが、午後3時にスタートの日もあれば、夜中の3時にスタートの日もあります。

写真は公式ホームページより
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あまり知られていませんが、エルメスの他にもシャネルやディオールなど、ハイブランドのフラッグシップショップにはアートイベントやコンサートを開催するホールが設けられていて、そこで多くは無料のイベントを開催しています。

シャネル ネキサスホール

今月エルメスで開催のイベントも無料で、誰でも予約なしにピアノ演奏を聴くことができます。

私が行った日は、夜の7時からの演奏開始でした。会社帰りに寄れる、ちょうどよい時間だったので、ホールは満席状態でした。

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観客もアートの一部になるというコンセプトなので、椅子が用意されているわけではなく、それぞれ好きな場所で床に直接座ります。希望する人にはブランケットを配布してくれます。

ピアニストご本人の書き込みがびっしりの楽譜も間近でみることができます。
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この日の演奏は、シメオン・テン・ホルトのミニマルミュージック。会場の独特な雰囲気と相まって、幻想的な演奏に惹き込まれます。
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人が多かったのがネックでしたが、「飲んだ帰り、夜中にふらりと立ち寄ってみたら人もまばらでほぼ貸し切り状態…」みたいな状況だったら、感激もひとしお間違いなしです。

なかなか夜中や明け方は行くのが難しいかもしれませんが、月の後半は午前中に演奏する日もあるので、ご興味あれば是非。

1月26日から2月3日まで、上野の「Gallery心」にて、「料紙と花」という展示会が開催中です。銀座線の稲荷町から徒歩約5分の、古民家を利用した素敵なギャラリーです。

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こちらで、小室かな料紙工房の小室久さんによる、美しい料紙の作品が展示・販売されています。小室さんは、茨木県常陸太田市に工房を構え、伝統的な技法で仮名料紙の制作を行っていらっしゃいます。

小室かな料紙工房

紙の染めから、版木の彫り、箔加工など、すべての工程を一人で行われているとのことです。料紙とは、主に仮名作品を書くための紙ですが、もはや料紙そのものが芸術作品です。

扇形の料紙
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小屏風。
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小屏風には、細かい絵がデザインされていますが、銀を使って、面相筆で全て手描きされているとのことでした。古筆の本を参考に、再現されているそうです。

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展示会期間中、こちらの2階で仮名料紙のワークショップが開催されています。天井も高く、古民家のよさをそのまま残した空間です。来年は再開発のため、残念ながらこの建物は取り壊されてしまうとのことでした。

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今回のワークショップでは、「継紙」という技法を学びます。
小室久さんが直々に指導して下さいます。

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まず、5枚好きな紙を選びます。様々な紋様や、金箔が入った美しい料紙が並んでいて、どれにしようか悩みます。

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選んだ料紙5枚。
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料紙5枚を重ね、一番上に型紙を乗せます。
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型紙の線に合わせて、彫刻刀を上から押すようにして、料紙に切り込みを入れていきます。

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1枚のハガキ大の紙が、このように分かれました。

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このままだと、切り込みを入れた部分に凹凸があるため筆の走りが悪くなるので、裏面からやすりをかけて滑らかにします。

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次に、刷毛でのりをつけて、紙を貼り合わせます。のりは、小麦粉からグルテンを分けたデンプン「生麩糊」を使います。文化財の修復などに使われているもので、しわになりにくいのだそうです。

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生麩粉に水を混ぜ、弱火で1時間ほど煮たものを刷毛につけ、料紙の裏側に塗っていきます。

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自分の選んだ5枚の中から好きな色を組み合わせ、紙を貼り合わせます。

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完成です!
参加者それぞれ紙の選び方に個性が出て、色々な味わいの継紙がであがりました。

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2時間ほどの作業でしたが、実際に体験してみると、本当に様々な工程をすべて手作業で行うということがわかります。仮名料紙とはどのようなものなのか、ほんの一端でも知ることができ、貴重な体験になりました。

秋の清和書道展の作品制作。

今年は紫陽花の歌を3行で書いて、下に紫陽花の絵を添えるという構成にすることにしました。

仮名は、さらさらーっと蛇行する線が美しいので、そういうのを書いてみたいと思って構成を考えましたが、この蛇行する線が難しい!
猛暑の夏、唸りながら苦行のようにひたすら書きまくり、ようやくこの出来ですが、今の自分の実力だとこれ以上は無理なので、今年はここで打ち止めです。

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並行して制作していた紫陽花の絵。
毎年「絵が目立つ」と言われるので、今年の目標は「絵は控えめに、書と一体になるように」です。

去年の作品

一体になるようにまず、絵は書と同じ紙を使うことにしました。
そのままだと滲んでしまうので、ドーサを引き、書と同じ色の茶墨を使います。
近所に咲いていた紫陽花のスケッチをして下絵を作ったら、墨と面相筆を使って線描きです。

紫陽花下絵

線描きが完成したら、次は色塗りです。
いきなり濃い色を塗るとむらになり、透明感も出ないので、最初は薄く色をのばして、何度も重ねてグラデーションを作っていきます。重ねすぎても紙がもたないので、その加減がなかなか難しいです。
今回は、7-8回くらい重ねています。紫陽花の葉の特徴である、葉脈をはっきりさせたかったので、少し太めに白を残すことにしました。

「無限・・・」と思えるくらい、ひたすら墨の重ね塗り・・・。
なかなか思うように濃くならないので、いつ終わるのかと心配になりましたが、やっと完成しました!!!

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完成した絵を書と合わせてみたら。。。

やっぱり絵が目立つ!
がーーーん。
なんだかあんまり仮名の書と会いません(´;ω;`)ウゥゥ
行書の作品と合わせて、漆の赤い額縁とかに入れて、中国調にしたら合うかもしれないです。
実を金色に塗っても可愛いかも、などなど頭の中で想像は膨らみますが、仮名に合わないので却下です。

気を取り直して、今度は青墨を使って、淡い色で描くことにしました。
葉脈も目立たないようにして、リアルな水滴も省略することに。

またまたひたすら苦行の重ね塗り。
途中で「なんでこんなめんどくさいの選んじゃったんだろう」と後悔が頭をよぎりましたが、ここまできたらもう遅い。
蝉の鳴き声を聞きながら、墨をぬりぬり10数時間。
淡い感じを出したかったので、葉っぱに少し色を重ねてみました。

完成!

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仮名の雰囲気にはこちらの方が合いそうです。
書も、青墨を使って再度書き直しました。

作品を制作していていつも思うのが、実際にアウトプットしてみないと、どんなものが生まれるか自分でもなかなか予測がつかないということです。頭の中で考えていたのとは違うがっかりなものができたり、逆に思いがけず面白いものができたり、作っている途中で変化したり、失敗だと思ったものがよかったり。アウトプットされたものを見て、また新しいものが生み出されるので、とにかくたくさん作るのが大事だなー、と思います。





清和書道会創立者で、私の祖父でもある植村和堂氏は、古筆収集家としても知られていました。
膨大な数のコレクションのうち、文化財として特に貴重なものが数十点、東京国立博物館に寄贈されています。

国立博物館の壁面にある寄贈者一覧 
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書道会によっては、自身で保管しているコレクションを、勉強会やイベントの際に会員や一般に公開したりしてるケースが見られます。

博物館に寄贈された場合、それを会の皆にも見せてもらうことはできないものだろうか?と前々から願っていたのですが、博物館の方にお願いしてみたところ、観覧会の開催を快諾頂きました!

観覧ツアーは、8月未明、東京国立博物館本館の地下で行われました。
学芸員の方に、会場まで案内して頂きました。

裏の扉から入り、
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2トンの重量に耐えられるというエレベーターで地下におります。
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昭和レトロな雰囲気の漂う、長い廊下が続きます。
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鑑賞会が行われた部屋。
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寄贈品の中から、観覧を希望した古筆が並べられていました。
今回は、11世紀から13世紀のものを中心に、7点鑑賞します。

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学芸員の方が、一つ一つ壁にかけてくださいます。

古今和歌集巻20断簡(関戸本) 伝藤原行成筆 平安時代 11世紀

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仮名書道をやっている人ならば必ず臨書する関戸本。
ガラスケース越しではなく、目と鼻の先でじっくり鑑賞することができるので、墨の色や線質、紙の質感など、直に感じることができます。平安時代のものなのに、墨の色が全く褪せていなくて、本当に美しいです。

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拾遺抄切 伝藤原公任筆 平安時代 11世紀

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紙には雲母が引いてあり、光を当ててみると、表面がきらきら光ります。

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針切 伝藤原行成筆 平安時代 11~12世紀
小さくて細かい字ですが、筆遣いが鋭く、エネルギーを感じる作品です。
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軸に使われている布も凝っています。室町時代のころの布だそうです。
古筆鑑賞は軸も含めて鑑賞する面白さがあるので、是非軸装にも注目してほしいと、使用されている生地や軸の決まりごとなどに関して学芸員の方が色々説明して下さいました。

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古今和歌集断簡 藤原定実筆 平安時代 12世紀
料紙に蝋箋が用いられています。

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古今和歌集(通切) 【重要美術品】伝藤原佐理筆 平安時代 12世紀
重要美術品とは、昭和はじめの制度で、国外に貴重な美術品が流出しないように指定されたものとのことでした。

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昭和18年に指定されたもののようです。巻物と一緒に入っていた書類。
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こちらも一緒に箱に入っていたハガキ。古物商から植村和堂宛のハガキで、「120円で買いませんか?」と書いてあります。

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記録切 藤原定家筆 鎌倉時代 13世紀
藤原定家の日記断簡。
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御文庫切
藤原家良筆 鎌倉時代 13世紀

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学芸員の方にご説明を頂きつつ、2時間くらいじっくりと至近距離で鑑賞することができ、古筆を肌で感じる、すばらしい体験をすることができました。

急に決まったツアーではありましたが、この貴重な機会、これからの書道会を担っていく会の若手の方たちにも経験して頂きたい!と思い、若手書家の方たちにも希望を募ってはいたのですが、あいにく組まれた日程が平日ということもあったため、今回は参加できた方が僅少だったのが残念ではありましたが、幸いにもまたこのような観覧の場を設けて頂けるとのことでしたので、次回は少しでも多くの方が参加できたらいいなと思います。

上野の森美術館で、「石川九楊展」が7月5日から30日まで開催されました。

http://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=214

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前衛書家の先生にすすめられて、何の予備知識もなく行ったのですが、いわゆる普通の書道展と思っていたので、最初は「これが書?」と度胆を抜かれました。独特の世界に目が釘付けになり、展覧会を見終わる頃にはすっかり虜になってしまいました。

カラマーゾフの兄弟(部分)
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源氏物語書巻55帖より「朝顔」
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源氏物語書巻55帖より「野分」
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ご本人が作品制作をされている映像が会場で流れていましたが、実際に原典の本を見ながら細い筆で制作されていました。
文字が派生してこのような世界に広がっているのでしょうが、見る人によっては色々なものに見えます。
ミロやクレーに通ずるところがあったり、音を表現したカンディンスキーの絵画作品にも通ずるところがあったり。
私には音が聞こえてくるように感じましたが、一緒に鑑賞していた友人は、「三次元ではない、別次元の世界への入り口に見える」と話していました。

源氏物語書巻55帖より「若菜 上」
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西洋画好きの友人にすすめてみたところ、早速見に行ってよかった!と返事があり、友人は、ロスコーやカンディンスキー、クレーみたいと話していました。

ご本人がショップにいらっしゃって、図録に気軽に墨でサインをしてくれたのにも感激しました。ライヒやグラスのコンサートに行った時も思いましたが、素晴らしい作品と、その作品を生み出したご本人を同時に目の前にすることができるのは、本当にすごいことだなと思います。

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